予算設計
予算ありきで設計する
予算設計は、予算の上限から逆算して組み立てます。積み上げ型の見積もりは使いません。
指名依頼であれば予算が明示されています。コンペでは上限が公開されているか、勝ち筋となる金額帯が読めます。事業会社の内部事業であれば、内部の予算枠やリリース日が決まっています。形は違っても、使える資源の上限が外側で決まっているという構造は同じです。
積み上げ型を使わない理由は二つあります。一つは、上限が外側で決まっている以上、積み上げた金額をそのまま提示できる場面がほとんどないこと。もう一つは、積み上げ型が必要な作業を事前に列挙できる前提に立つこと。予算設計をする時点では、企画も工程もまだ決まっていないので、作業を列挙することはできません。
提案の中身を見て、クライアントが予算の上限を上げることはあります。ただし、上げるかどうかはクライアントが提案を見てから決めることなので、予算設計の前提には置けません。予算設計では、提示された予算を上限として扱い、上限の中で利益が出る案を組みます。上限を超える案は、上限の中の案とは別に、松竹梅の上の案として企画で組みます。予算が固定されたコンペのように、上限を超える案がほぼ通らない案件では、組まないこともあります。
予算設計の手順
手順は案件のタイプによって出発点が変わります。基本形は予算が明示されているケースで、他の二つはそこからの応用です。
予算が明示されているケース
指名依頼で予算が示されている、もっとも単純なケースです。
- 提示された予算のうち50パーセントを利益として確保します。確保した利益は、不確定要素を吸収するための計画的バッファです。割合は案件の性質に応じて調整します。
- 残りを人日単価で割って、使える総工数を算出します。人日単価は5万円が一つの目安です。
- 総工数と要求を見比べます。企画を工夫しても明らかに足りないときは、予算設計の段階で受注しません。企画次第で収まる見込みがあるときは、総工数を上限にして、このあとの企画、工程設計、チーム設計に進みます。
PM術では、金額も工数も、人日に換算して扱います。利益として確保した金額も、人日単価で割れば、工数の余りとして数えられます。
予算が明示されていないケース
事業会社の内部事業のように、予算枠が決まっていないケースです。
- 期間や体制から、使える総工数を算出します。
- 総工数のうち20から50パーセントの範囲でバッファを確保します。外部案件と同じ50パーセントは過剰になることが多いので、社内の運用ルールに合わせて調整します。
- 残りの工数と要求を見比べます。企画を工夫しても明らかに足りないときは、要求や期間の見直しを、依頼する部署に再提案します。企画次第で収まる見込みがあるときは、残りの工数を上限にして、このあとの企画、工程設計、チーム設計に進みます。
外部案件のように降りるという選択肢は取れません。前提を動かして、成立する形に持ち込みます。
競争になるケース
コンペや自主提案など、予算提示そのものが勝負どころになるケースです。
- 勝ち筋となる金額帯を読みます。フェルミ推定で読みにいきます。手順は次の通りです。
- 相手の事業部の売上を確認します。会社全体ではなく事業部単位の数字です。担当者に直接聞いて答えてもらえることが多く、上場企業であれば決算資料からも取れます。
- 案件の予算源にあたる費目の比率を調べます。広告予算であれば、クライアントの業界が売上の何パーセントを広告費にあてているかを業界レポートや決算資料から拾います。担当者から直接聞ける場合もあります。
- 相手の事業部の人員規模から、年間あるいは四半期に走らせられるプロジェクトの本数を見積もります。
- ここまでの数字を割り算して、案件単位の上限予算の目安を出します。
- 要求の中身と経験則の相場感を合わせて、競合が出してくる金額帯を想定します。
- 読んだ金額を動かせない予算として、基本形の手順を回します。
- 成立しないと判断したら降ります。
自主提案では、こちらから松竹梅で出せるので、外すことはほぼありません。コンペでは、相手が金額を提示してくることも多く、金額勝負系のコンペには最初から乗らないので、フェルミ推定で金額帯を読めば足ります。
利益率を下げない
予算設計の運用では、利益率を下げる判断を繰り返し迫られます。計画的バッファを削れば見かけの予算は増え、企画の自由度も上がるように見えます。しかし、PM術では計画的バッファを削りません。
利益率を下げないことの中核は、計画的バッファの確保と企画力の関係にあります。
計画的バッファは、不確実性を吸収するための備えです。利益率を下げるという判断は、計画的バッファを削る判断と同じ意味を持ちます。事前準備の段階で計画的バッファを薄くすれば、後のフェーズで赤字や品質低下として返ってきます。
計画的バッファを確保したうえで企画を成立させることを可能にするのが、企画力です。限られた工数のなかで成立する企画を組み立てる力がなければ、計画的バッファを確保したまま受注することはできません。利益率を下げない方針が成立するのは、企画力で勝負しているからです。
補足として、同じ相手と取引を繰り返す関係(繰り返しゲーム)の観点もあります。一度値下げをすると、次回以降の交渉で必ず参照されます。長期で見ると交渉の土台を切り崩す行為になります。
事業会社への置き換え
ここまでは受託の文脈で書いていますが、事業会社でも構造は変わりません。社内のリソース配分や予算策定の文脈に置き換えて読んでください。バッファを確保し、安易に削らないという判断は、外部への金額提示の有無とは関係なく、プロジェクトの成立可能性を左右します。