デザイナーの戦闘力の測り方

デザイナーに何かを頼もうとするとき、いちばん厄介なのは「この人がどれくらいできるのか」が、頼む前にはわからないことだと思います。

以前、「Webディレクター不要論」という記事で、プロジェクトを進めたいだけなら高スキルのデザイナーが一人いれば足りることも多い、と書きました。すると当然、次の問いが出てきます。「じゃあ、その『高スキル』ってどう見分けるの?」と。

今回は、そんな「見分け方になるかもしれないもの」のお話です。

デザイン力はそりゃ測れない

最初に当たり前なことを言うと、デザイナーの「デザイン力」を客観的に測るのは、ほぼ不可能です。
配色がうまいとか、レイアウトが整っているとか、そういうものは数値化できませんし、
仮にできたとしても、見る人の好みや流行にも左右されちゃいます。
「この人のデザイン技術は80点」みたいな測り方は、そりゃできないです。
代わりに、もっと外から見えやすい基準を使うことを提案します。
それが「デザイン視力」です。

デザイン視力はやや測れる

デザイナーが教育を受けるときには「目」の訓練をします。
たとえば、文字間の隙間を整える作業がありまして(カーニングと言います)
訓練の前は何も感じないのですが、訓練の後は、この世の全ての整ってない文字が気になってきたりします。しかもそれが自動的に発動してしまうので、出来の悪い電車内のポスターにイライラしたり、日常生活にも支障が出たりもします。
こういう状態を「目が見える」とか「目ができてきた」と言いますが、
その用法を、審美眼的な意味に限定せずに、仕事一般に延長して使おうというのが筆者のアイデアです。
どこまで精細に、どの程度遠くまで見えるのか?という意味で「デザイン視力」と定義しましょう。

といっても、わかりにくいので例えを出しますね。
「肉まんの宣伝をするWebバナーを一枚作る」という仕事で、デザイン視力の違いを並べてみます

Lv1(新人) : 作業まで見えている

「肉まんが見やすいように、レイアウトして整えよう」

言われたとおりにバナーを作れる。
それ以上は何も見えていないので何も考えない。

Lv2(半人前) : 作業の目的まで見えている

「知名度拡大が目的だから、商品名を見やすくしよう」

そのバナーの目的に沿ったデザインができる。「クリックしてほしい」のか「覚えてほしい」のかで、作りを変えられる。

Lv3(一人前) : その作業が発生した理由まで見えている

「今は肉まん戦国時代だから、他社の肉まんとの違いをはっきりと示そう」

バナーの目的の目的がわかっているので、
そもそもどういうバナーを作るべきか?を自ら提案できる。

Lv4(玄人) : その作業が発生した理由が正しいか?まで見えている

「この肉まんって、そもそもネット通販してないのにバナー広告意味なくない?新聞折込チラシの方がいいのでは?」

そもそもこれでいいのか?に気付ける。手段そのものを疑い、目的から考え直せる。

Lv5(達人) : その作業が発生した理由の前提まで見えている

「冷凍さえできればWeb通販できるんだから、無駄な宣伝より先に冷凍商品の開発をすればいいのに」

客自身がまだ気付いていない課題を見つける。クライアントとほぼ同じ目線で事業を見ている。

どうでしょうか?
同じデザイナーという人の中にも、これだけの違いがあるのがわかってもらえますかね?
特に、Lv4(玄人)への壁はかなり高いですね。

ところが、デザイン視力だけじゃないんです

ここまで読むと、「じゃあデザイン視力が良い人を選べばいいんだな」と思うかもしれません。
ところが、これだけでは足りないのです。もう一本、見落とされがちな要素があります。

それが「覚悟」です。

覚悟というのは、「見えている範囲のうち、どこまでを自分の責任として引き受けるか」です。
つまり、デザイン視力とは別の指標として「それ本当にできるの?」が大切なのです。

覚悟の方が大切かもしれない

実は、デザイン視力の良さと、覚悟の強さは全くの別問題です。

先ほどのバナーの例の場合、Lv4(玄人)の人が
「この肉まんって、そもそもネット通販してないのにバナー広告意味なくない?新聞折込チラシの方がいいのでは?」
と気付き、上司にその旨を伝えたとします。
(この時に、この気付きを伝えるか?というと実は伝えない人の方が多いのですが、
一旦それは置いといて)

すると、それを聞いた上司が「なるほど。では新聞折込チラシやってください。任せるので」
と言うと、
「いや。わたしは思ったことを言っただけだし、チラシの専門家でもないので誰か向いている人に頼んでください(でも成果が出たらそれに気付いた手柄は欲しいな(でもでも失敗した時の責任は取りたくない))」
になってしまうのが、いわゆる覚悟のなさの現れです。

この覚悟がないと現実の仕事は進みません。
どんなにデザイン視力が良くても、覚悟が伴わないと机上の空論なのです。

そして厄介なことに、この覚悟のほうが、見過ごされやすいのです。

覚悟はデザイン視力を超えられない

もうひとつ、大事な性質があります。
覚悟レベルは、その人のデザイン視力レベルが上限だということです。
デザイン視力がLv3(一人前)の人は、最高でもLv3相当の覚悟しか持てないのです。(見えていないので当たり前ですが)。
逆に言うと、覚悟レベルが、その人のデザイン視力の上限を決めている。とも言えます。

ところが、ここが罠なのですが、「デザイン視力通りの覚悟を持っている人」は、実はかなりの少数派だったりします。

先ほどの例の通り、「口は出すが責任は取りたくない」の人の方が一般的ということです。
(あくまで筆者の主観ですが)

だから、デザイン視力だけ見てはいけない

ということで、クライアントや発注者がやりがちなのは、デザイン視力の良さ=
言っていることの凄さや提案の質だけをみて、「この人はすごい」と評価してしまうことです。

でも、本当に大事なのは「そのデザイナーに必要十分な覚悟があるか?」なのです。

デザイン視力がLv4(玄人)でも、覚悟がLv1(新人)しかなければ、実際の働きはLv1と変わりません。むしろ、口を出すぶんだけ面倒になることすらあります。
ものすごくよくあることです。
逆に、デザイン視力がLv2(半人前)でも、そのLv2の範囲にはきっちり覚悟を持っている人なら、そのデザイナーは信頼できます。別にデザイン視力が良ければ偉いというわけではなくて、
きちんと任された範囲に責任を持つことが大事なのです。

じゃあ、覚悟のある人がいいな

というわけで、デザイナーを見分ける視点を、デザイン視力と覚悟の二要素で提案してみました。

デザイン視力の高さは、少し話せば見当がつくこともあります。でも覚悟のほうは、実際に一緒に働かないとわからない場合がほとんどですし、意識しないと気付かない観点でもあります。

今あなたが一緒に仕事をしているデザイナーは、見えている範囲について、ちゃんと責任を取ってくれている人でしょうか。
一回考えてみると面白いかもしれませんね。

でも結局のところ「じゃあ、覚悟のある人がいいな」という、それだけの話だったりするので、
弱いオチですが、それがリアルですね。