プロフェッショナル観察日記 ~5辛の大盛り~
5辛の大盛りっっ!!
筆者が駆け出しの頃に出会ったエンジニアの方のお話です。
仮名はゴカラさんとします。
この方は、松本明子に似た顔と、ぽっちゃりとしたラブリー体型の男性の方でした。
大体3月から11月までは黒のノースリーブで過ごし、ほぼ毎日「今日はあったかいね」と挨拶してくれるナイスガイでした。
ゴカラさんと一緒にお昼に行く時の定番は、当時のオフィスの近所にあった麻婆豆腐の専門店だったのですが、辛党のゴカラさんは、毎回席につくなり「5辛の大盛りっっ!!」と叫んでいたのが印象深くて、仮名に採用させてもらいました。
ちなみに、この店は1辛でもかなり辛い感じの店でしたが「ピリ辛で美味しいよねぇ〜」と言いながら5辛を楽しんでましたね。
マツゥ〜〜
ゴカラさんは、筆者より後に入社してきた中途社員だったのですが、
その理由は「マツさん(仮名)」という男性のデザイナーの社員が先に働いていたからでした。
ゴカラさんとマツさんは、出身学校が同じだったみたいで、マツさんが新しい事業を立ち上げることになり、その関係で他で働いていたゴカラさんをマツさんが引き抜いた。みたいな経緯でした。
ゴカラさんはマツさんのことが大好きだったみたいで、仕事で呼ぶときに「マツゥ〜〜」という独特の呼び方(例えるのは難しいですが、深夜ドラマで若妻が旦那を呼ぶ時みたいな(?)トーンと思っておいてください)で、決して広くないオフィスを生暖かく彩るのが一種の名物でした。
マツはすごいよ
そう。何を隠そう、ゴカラさんはマツさんに学生時代からかなり心酔していたみたいで、
隙あらばマツさんがいかに素晴らしくて先見の明があるかを周りの人間にも語りはじめ、それが延々と続く。みたいな感じでした。慕う、というより、ほとんど崇拝というか。
「マツはすごいよ」が口癖というよりも挨拶みたいな感じでした。
のめり込み体質
そんなゴカラさんのエピソードを一つ紹介します。
ある日、友人がゴカラさんの家に行くと、煙が充満した部屋で、パソコンの前で突っ伏しているゴカラさん。
火事か!と思って慌ててたらゴカラさんはムクっと起き上がって「どしたの?」と逆質問。
どうやら、「換気をせずにタバコを吸い続けながら徹夜でプログラミングしてたら酸欠になったかも」とのこと。
(昭和のカレーライスみたいにそのパソコンはヤニで真っ黄色だったみたいです)
何が言いたいかというと、ゴカラさんはのめり込み体質だと言うことですね。
焼き鳥食いにいかない?
ところが、半年くらい経ったくらいから徐々に「マツゥ〜〜」の声が聞こえなくなってきました。それどころか、ある日などジャケットを着て出社してきました。
袖がちゃんとある服を着ているゴカラさん。これは一大事だと思って心配になり声をかけてみました。(ちなみに関係ないですが、「飲みに行きましょう」ではなく「焼き鳥食いにいかない」がゴカラ語でしたが、結局本当に焼き鳥を一緒に食べにいったことは皆無)
終業後に近所の居酒屋で話を聞くと、以前はあれだけ立て板に水で口から出ていたマツへの賞賛が、同じ口から、今度は文句が出るわ出るわ。状態でした。
まとめると
- マツのプロジェクトがすごいと思って、わざわざ給料を下げてでも転職した
- なのに、全然そのプロジェクトが進んでいない
- マツは、喋るとすごいのに、実際に一緒に働くと全然ダメ
- 騙された気分だ
- しかも最近は自分への態度も雑
簡単に言うと、「憧れていた人が大したことないことに気づいた」悲しさ。
だったのですね。
ジャケットで付け足した本来不要のはずの袖は、マツの言葉の刃から自分を守るための無意識の鎧だったみたいです。(もしくは転職活動していただけか)
マツは元々…
マツが本当に大したことなかったのかどうかは、ここでは分からないので触れません。
しかし、傍目に見てて「温度差があるな」ということは明らかでした。
いつも「マツゥ〜〜」と呼ばれても、マツさんは「おぅ」みたいなぶっきらぼうな感じでしたし、マツさんのプロジェクトが危なくなってきた時には、明らかに不機嫌をゴカラさんにぶつけていました。多分、ゴカラさんの愛情を当たり前として消費するばかりで、何も返せていなかったのかな。と感じました。
もしくは、本当に単に技術的な観点で「使えるな」と思ってゴカラさんを引き抜いただけで、打算だった可能性もあります。
そこは謎です。しかし唯一の真実は「マツさんは麻婆豆腐が嫌い」ということだけです。
(多分辛いものが苦手)
なので、マツさんは、ゴカラさんが5辛の大盛りを飲むみたいに食べる様子を一度も見たことがなかったのです。
筆者はまだ1辛の普通盛り
筆者はマツさんやゴカラさんよりも先にその会社を卒業しちゃったので、
その後にどうなったのか詳細は知りません。
風の噂では二人とも別の職場に転職したらしいのですが、確信はないです。
少しだけ気になっているのは、自分がマツさんだったらどうしたか?
ということです。
もし、自分の能力以上に自分を捉えて、慕ってくれる人がいたら?
でも、その人に幻滅される条件が全部揃っていたら?
そう考えるとぞくっとしますが、結局できることは「本当にすごくなる」
以外になさそうです。
だから今は努力するしかないです。
いつか5辛の大盛りを飲めるようになるために。