要求定義

要求定義とは

クライアントの要求を把握し、プロジェクトとして取り扱える形に定義する作業を扱います。ここで定義された要求が、後続の予算設計、企画、工程設計、チーム設計のすべての出発点になります。


要求定義の進め方

提示された要求を、そのまま受け取らない

クライアントが依頼の言葉や資料で示す要求は、クライアントが自分で言語化できた範囲のものです。言語化できた範囲で足りるなら、外部の提案者は必要ありません。提案者の存在価値は、クライアント自身に見えていないものを見えるようにすることにあります。

要求の中身ではなく、目的と背景を問う

提示された要求の中身(どの機能を入れるか、どれを優先するか)を聞いても、クライアントがすでに持っている言葉が整理されるだけです。PMは、要求が何のためにあるのかと、要求の背景に何があるのかを問います。返ってきた答えは要求そのものとして扱わず、PMが目的を解釈するための材料にします。

観察するのはクライアントの組織と事業環境

組織については、意思決定構造、組織内の力学、過去の意思決定の履歴を見ます。事業・市場環境については、業界の状況、競合、顧客を見ます。問いへの答えと観察を合わせて、クライアントが本当に達成したい目的を解釈します。

窓口担当者の言葉を、決裁者の言葉として扱わない

クライアント側で会う相手の言動も、観察の対象になります。相手が決裁者(クライアントの中で、最終的に決める人)か、決裁者に近い人であれば、言動は重要な情報源になります。窓口担当者の言葉の多くは、決裁者の意図を担当者が受け取って言い直したものなので、担当者の言葉から本当の目的を読み取ることには限界があります。窓口担当者であっても、決裁者と同等の理解を持っていれば、決裁者に近い人として扱えます。

決裁者の言葉の確かめ方は、案件ごとに選ぶ

窓口担当者が決裁者と同等の理解を持っていないときは、決裁者の言葉を確かめにいきます。確かめ方には、次の三つがあります。

  • PMが決裁者に直接会う。決裁者の言葉を自分で聞けます。担当者を飛ばす形になると、担当者が社内での立ち位置を失い、以後の調整でPMの味方になりにくくなります。
  • 担当者に場を作ってもらい、担当者と一緒に決裁者に会う。担当者を飛ばさずに、決裁者の言葉を自分で聞けます。担当者が場を作れるかどうかは、社内での担当者の立場によります。
  • 担当者に、決裁者がどんな場面で何を言ったのかを確かめてきてもらう。担当者の立ち位置を保てます。PMが手にするのは、担当者を通した言葉です。

決裁者に会えるかどうかは、案件によって違います。筆者の経験では、どの確かめ方にも、うまくいった案件とうまくいかなかった案件があります。

言明された目的と、引き出した目的は分けて記述する

PMが引き出した目的は、クライアントが言明した目的とは性格が異なります。言明された目的はクライアントの言葉によるもの、引き出した目的はPMの解釈によるものです。二つを混ぜずに書くことで、PMの解釈責任を文書上に残します。

コンペと依頼で進め方は変えない

情報の得やすさや接近の自由度は案件ごとに違いますが、違いはテーラリングとして扱い、頭の使い方は変えません。コンペでも、資料に書かれた要求をそのまま受け取らず、目的と背景から解釈します。


成果物

成果物は、PMとクライアントの合意文書です。コンペのように、提案の前にクライアントと合意する場が無い案件では、PMが定義した要求を提案の中で示します。

含める項目は三つ

目的・ゴール。クライアントが達成したい目的を記述します。中核となる項目です。

手段の取り扱い。クライアントが持ち込んだ手段(Webサイトのリニューアルなど)を、どこまで前提にするかを記述します。何を作るかは、要求定義では決めず、このあとの企画で組み立てます。

制約条件。予算、期間、関係者、既存資産などを記述します。

中身は案件ごとにテーラーする

固定するのは、三つの項目を扱うことと、目的・ゴールで言明と解釈を分けることだけです。文書の構造、粒度、項目の重みは、案件の性格に合わせます。


提示された要求をそのまま受け取ると、手段が目的になる

例えば、クライアントから資料上で示される要求が「Webサイトをリニューアルしたい」だったとします。しかし、本当の要求はリニューアルそのものではありません。リニューアルして何を解決したいのかが本質であり、クライアント自身も気づいていない場合がよくあります。PMは、クライアントのWebサイトや事業を分析し、提示された要求と併せて要求を再定義します。

再定義しないまま進めると、リニューアルすること自体が目的になります。見栄えを整えることに力が集まり、情報設計に力が入らず、雰囲気だけ整った成果物が納品されます。本当の目的がコンバージョン率の改善だった場合、コンバージョン率は改善されないまま終わります。