オラクル

総論では、思考術をプロシージャとオラクルの二つで捉え、オラクルを「中身の手順を問わずに答えを返してくるブラックボックス」と定めました。ここでは、手順では追えない直観側であるオラクルを掘り下げます。

手順側のプロシージャはこちらにあります。

オラクルとは何か

オラクルとは、どうしてもプロシージャにできない部分のことです。手順にできた時点で、それはオラクルではなくプロシージャです。

オラクルのいちばん大事な性質は、答えに各自の個性が出ることです。同じプロシージャを同じ前提で動かしても、出てくる結論は人によって違います。その違いを生んでいるのが、各自のオラクルです。プロシージャは前提と手順を共有すれば誰でもある程度同じように動かせますが、オラクルはそもそも共有ができません。なぜその答えに至ったかは、出した本人にも説明できないからです。

オラクルの中身は手順にできないので、このページでは、オラクルの中身を手順にする「発想法」は示しません。示せるのは、オラクルを出やすくするプロシージャだけです。

オラクルは人によって違うので、以下の手順の効き方も、人によって違います。

オラクルを出やすくするプロシージャ

目の前の問題でオラクルを出やすくするには、ジェームス・W・ヤングが『アイデアのつくり方』で示した手順を使います。

ヤングは、アイデアを、すでに持っている材料の新しい組み合わせだと考えています。組み合わせは、次の段取りで生まれます。

  1. 関係しそうな材料を、限界まで集める。
  2. 集めた材料を、頭の中で繰り返し組み合わせてみる。答えが出ずに行き詰まるまで続ける。
  3. いったん問題から離れる。考えるのをやめて、別のことをする、休む、寝る。
  4. 考えていないときに、組み合わせが思い浮かぶ。
  5. 思い浮かんだ組み合わせが現実で使えるかを検証し、使える形に仕上げる。

五つの段階のうち、材料を集める、組み合わせてみる、離れる、検証する、の四つは手順なので、プロシージャです。オラクルは、組み合わせが思い浮かぶ段階だけです。ヤングの手順はオラクルの中身には触れず、オラクルの答えが出る前と後の段取りだけを決めています。

問題から離れ、あとで答えを受け取る段取りは、プロシージャで定義した非同期型オラクル(その場で粘らず、いったん寝かせて後で答えを拾うタイプ)の使い方にあたります。

問題から離れたあとに答えが出る現象は、心理学ではインキュベーション効果として研究されており、離れる前に長く取り組むほど効果が大きいことが示されています(Sio & Ormerod, 2009)。

離れている間は、頭を使わないことをする

離れている間を、頭を使う別の作業で埋めると、インキュベーション効果は小さくなることが示されています(Sio & Ormerod, 2009)。したがって、離れている間は、別の問題を考えたり、集中の要る仕事をしたりしないでください。散歩のように、注意を向け続けなくても続けられることをしてください。

インプットを続ける

ヤングは、集める材料を二つに分けています。目の前の問題に関わる材料と、人や世の中についての一般的な知識です。手持ちの材料が少なければ、組み合わせの幅が狭くなります。一般的な知識は長い時間をかけて蓄えるものなので、問題が起きてから集めても間に合いません。

一般的な知識は、日々の行動の中で出会ったものから蓄えられます。インプットの量は、行動の量と、行動の中で出会ったものをどれだけ流さずに受け取るかで決まります。したがって、インプットを増やすには、行動の量、つまり試行の回数を増やしてください。行動の量を増やせないときは、行動の中で流してしまう量を減らしてください。

参考資料

本文で理由として引いた文献です。

  • Sio, U. N. & Ormerod, T. C. (2009) “Does Incubation Enhance Problem Solving? A Meta-Analytic Review”, Psychological Bulletin, 135(1), 94–120. — インキュベーション効果について、既存の実験を統合した分析。離れる前の取り組みが長いほど効果が大きく、離れている間を頭を使う作業で埋めると効果が小さい。概要